頭の中が過去や未来でいっぱい?「今ここ」の身体の声に気づくマインドフルネス
「あの時、ああ言えばよかった」「この先、どうなるんだろう…」。気づけば頭の中が、終わったことへの後悔や、まだ来ぬ未来への心配事でいっぱい。やらなければならないことにも追われ、「今」を生きているはずなのに、心がここにあらず、という感覚になることはありませんか?
常に思考が巡っていると、心も体も休まる暇がありません。そして、それが長く続くと、漠然とした不安を感じやすくなったり、知らず知らずのうちに体に負担がかかっていたりすることがあります。
でも、安心してください。それはあなただけではありません。現代社会に生きる私たちは、過去や未来について考える機会が多く、どうしても思考優位になりがちです。そして、そんな時に忘れがちなのが、「今ここ」にある自分自身の「身体」の声です。
頭の中が過去や未来に囚われるとき、「身体の声」はどうなる?
私たちの脳は、過去の出来事を分析して未来を予測する素晴らしい機能を持っています。この機能があるからこそ、私たちは学び、計画を立て、危険を避けることができます。しかし、この思考が過剰になると、終わったことを何度も思い出して後悔したり、まだ起こってもいない未来についてあれこれ心配しすぎたりしてしまいます。
心が過去や未来へと飛び続けている間、意識は「今」から離れてしまいます。すると、「今ここ」で私たちと共に存在しているはずの身体への意識も薄れてしまいます。肩が凝っている、お腹が張っている、呼吸が浅い、といった身体からのサインに気づきにくくなるのです。
マインドフルネスが「身体の声を聞く」こととどうつながるのか
マインドフルネスとは、「今ここ」に意図的に意識を向け、その瞬間の体験をありのままに受け入れる練習です。判断や評価を加えずに、ただ「気づく」ことに焦点を当てます。
このマインドフルネスの実践において、特に重要視されるのが「身体感覚」への気づきです。なぜなら、私たちの身体は常に「今ここ」に存在しており、感情や思考、周囲の状況に対する正直な反応を「感覚」として表現しているからです。
マインドフルネスを通して、呼吸の感覚、体に触れる衣服の感覚、足が床についている感覚など、様々な身体感覚に意識を向ける練習を重ねることで、私たちは自然と「今ここ」に戻ってきやすくなります。
これは、単なるリラクゼーションとは少し異なります。脳科学的な研究では、マインドフルネスの実践によって、感情を司る扁桃体の活動が穏やかになり、一方で、自己認識や身体感覚に関わる島皮質や、注意や自己制御に関わる前頭前野の働きが活性化することが示唆されています。つまり、科学的にも「今ここ」の身体や心に気づく力が養われると考えられています。
「身体の声を聞く」ことの重要性
身体の声は、私たち自身の心と体の状態を教えてくれる、嘘のない情報源です。頭の中の思考だけでは「大丈夫」と思っていても、体が「疲れたよ」「無理しないで」と教えてくれていることはよくあります。
- 漠然とした不安を感じる時、お腹のあたりがキューっとなっている。
- 人間関係で我慢している時、喉に何か詰まった感じがする。
- 忙しすぎて休めない時、体のあちこちが重く感じる。
このように、身体は感情やストレス、疲労といった心や外部の状況に正直に反応し、私たちにサインを送ってくれています。このサインに気づけるようになると、自分の状態をより正確に把握し、心身のバランスを崩す前に必要なケアをしてあげることが可能になります。
日常で手軽にできる「身体の声を聞く」マインドフルネス
特別な時間や場所は必要ありません。日常生活の中で、ほんの少し意識を向けることから始められます。
1. 呼吸に意識を向ける(1分〜)
いつでもどこでもできる最も基本的な実践です。 椅子に座っていても、立っていても構いません。目を閉じても、開けていても楽な方を選んでください。 ただ、「今ここ」で行われている呼吸に注意を向けます。 吸う息、吐く息の、空気が出入りする感覚、お腹や胸が膨らんだりしぼんだりする感覚などを、ただ観察します。 過去や未来の考えが浮かんできても、「あ、考えていたな」と気づいて、またそっと呼吸に意識を戻します。これを繰り返します。
2. 体の特定の部位に意識を向ける(1分〜)
例えば、足の裏に意識を向けてみましょう。靴下や靴に触れている感覚、床についている感覚、温度などを感じてみます。手なら、触れているものの感触、暖かさ、冷たさなどを感じてみます。 特定の部位に意識を集中することで、「今ここ」の身体感覚に戻りやすくなります。
3. 歩くときに足裏の感覚に意識を向ける(移動中)
通勤中や買い物の移動中など、歩いている最中に試すことができます。 一歩一歩、足の裏が地面に着地し、離れていく感覚に注意を向けます。足の重さ、地面からの反発、重心の移動などを感じてみましょう。
これらの実践は、それぞれ1分程度からでも効果があります。「完璧にやらなきゃ」と思う必要はありません。ただ「気づく」ことを優しく繰り返すのがポイントです。
「身体の声を聞く」ことで期待できる変化
「身体の声を聞く」マインドフルネスを日常に取り入れることで、すぐに劇的な変化があるわけではありませんが、少しずつ次のような変化が期待できます。
- 「今ここ」に戻りやすくなる: 過去や未来の思考に囚われそうになった時、「あ、考えているな」と気づき、「今ここ」の身体感覚(呼吸や足裏など)に意識を戻すことができるようになります。思考に振り回される時間が減るかもしれません。
- 自分の状態に気づけるようになる: 疲れやストレスが体に表れるサインに、早めに気づけるようになります。これにより、休憩を取る、軽くストレッチするなど、必要なセルフケアをタイムリーに行える可能性が高まります。
- 感情との付き合い方が変わる: 感情が湧き上がった時、それが体にどのような感覚として現れているかに気づくことで、感情に飲み込まれるのではなく、一歩引いて観察できるようになることがあります。
小さな一歩から始めてみませんか
頭の中が過去や未来でいっぱいになりがちなのは、あなたが一生懸命に日々を過ごしている証拠でもあります。でも、時には「今ここ」の身体に意識を向け、その声に耳を澄ませてあげる時間を持つことも大切です。
ご紹介したマインドフルネスの実践は、どれも日常生活の中に無理なく取り入れられる簡単なものです。まずは一日数回、数秒でも構いません。呼吸や身体の感覚に意識を向けてみませんか。
「身体の声を聞く」習慣は、あなた自身の心と体を大切にするための、温かい時間となるはずです。この小さな一歩が、あなたの毎日をより穏やかで、満ち足りたものにするヒントとなれば幸いです。