「いつも疲れているな」と感じたら 身体の声を聞くマインドフルネス入門
「いつも疲れているな」と感じる毎日
やらなければならないことに追われ、自分のことはつい後回し。気づけば「なんだかいつも疲れているな」と感じている。そんな日々を送っていませんか。
忙しい毎日の中で、私たちは知らず知らずのうちに心や身体からのサインを見落としがちです。疲れていると感じていても、「気のせいかな」「もう少し頑張らなきゃ」と自分に言い聞かせ、そのままにしてしまうことは少なくありません。
しかし、その「疲れているな」という感覚は、もしかしたらあなたの心と身体が送っている大切なメッセージかもしれません。このメッセージに耳を澄ませることで、心身の状態をより深く理解し、自分自身を大切にする一歩を踏み出すことができます。
身体の声を聞くことの重要性
「身体の声を聞く」と聞くと、少しスピリチュアルに聞こえるかもしれませんが、これは私たちの身体が発している様々な感覚に意識を向けることを意味します。例えば、肩の重さ、腰の痛み、胃の不快感、手足の冷えなど、具体的な身体の感覚から、「なんとなく力が抜けない」「心がソワソワする」といった、身体と心がつながった感覚までを含みます。
なぜ、この「身体の声を聞く」ことが大切なのでしょうか。現代社会は情報過多で変化が速く、私たちは常に多くの刺激にさらされています。仕事や家庭のことで頭がいっぱいになり、未来への不安や過去の後悔について考える時間も増えるかもしれません。このような状況では、どうしても意識が「今ここ」の自分自身から離れがちになります。
身体は、私たちがどんな感情を抱いているか、どのくらい疲れているか、何にストレスを感じているかなどを、正直に教えてくれるセンサーのようなものです。疲労感が続いている場合、それは単に休息が足りないだけでなく、心の状態や生活習慣、抱えているストレスなどが複合的に影響している可能性も考えられます。
身体の声に気づくことは、これらのサインを早期に捉え、心身のバランスが崩れる前に対処するための重要な手がかりとなります。これは、自分自身の状態をより正確に把握し、必要なケアを自分自身に与えるための、科学的にも注目されている自己理解の方法の一つと言えるでしょう。心理学や神経科学の分野では、このような身体内部の感覚に気づく能力を「内受容感覚（Interoception）」と呼び、心の健康との関連が研究されています。内受容感覚が高い人は、自分の感情やストレスレベルをより正確に認識できる傾向があると考えられています。
マインドフルネスが身体の声を聞く手助けになる理由
そこで役立つのが、マインドフルネスの実践です。マインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に、意図的に、評価や判断を加えることなく注意を向けること」です。これは、何か特別な状態になることや、頭の中を空っぽにすることではありません。ただ、「今、ここで自分に何が起こっているか」に意識を向け、それに気づく練習です。
マインドフルネスの実践は、私たちの注意を過去や未来から「今ここ」へと戻し、その瞬間に感じている身体の感覚や呼吸、感情などに意識を向けることを促します。これにより、普段は見過ごしてしまいがちな身体の小さな変化やサインに気づきやすくなります。
例えば、「いつも疲れているな」と感じている時、マインドフルネスの実践を通して、その疲労感が身体のどこに現れているのか（肩や首のこり、胃の重さ、手足の冷えなど）、その身体感覚に伴ってどんな感情が湧いているのか（イライラ、不安、諦めなど）に気づくことができるかもしれません。
このように身体の感覚に意識を向ける練習は、脳の一部の活性を変化させ、ストレス反応を司る部分の活動を穏やかにする可能性が研究で示唆されています。つまり、マインドフルネスは単なるリラクゼーションではなく、神経科学的なメカニズムを通して、私たちが自分自身の心身の状態をより深く理解し、適切に対処できるようになるためのツールとなり得るのです。
今日からできる！ 疲れを感じた時の簡単なマインドフルネス実践
忙しい毎日の中でも、手軽にできるマインドフルネスの実践はたくさんあります。ここでは、「いつも疲れているな」と感じた時に試せる簡単な方法をいくつかご紹介します。特別な道具や場所は必要ありません。
-
呼吸に意識を向けるミニ瞑想（1分〜3分）
- 椅子に座っている時や、少し立ち止まった時に行えます。
- 目を閉じるか、視線を柔らかく一点に定めます。
- ご自身の呼吸に意識を向けます。鼻から入る空気、お腹や胸が膨らむ・しぼむ感覚、鼻から出ていく空気など、呼吸に伴う身体の感覚をただ観察します。
- 他の考えが浮かんできても大丈夫です。それに気づいたら、静かにまた呼吸の感覚に意識を戻します。
- 1分でも構いません。短い時間でも、意識を「今ここ」の呼吸と身体に戻す練習になります。
-
身体の感覚に意識を向ける（座っている・立っている時）
- デスクワーク中や、電車待ちの時間などに。
- 座っているなら、椅子にお尻が触れている感覚、足の裏が床についている感覚に意識を向けます。
- 立っているなら、足の裏が地面についている感覚、身体を支えている感覚に意識を向けます。
- 肩の力み、首の張り、手の位置など、身体のどこかに不快な感覚や緊張がないか、注意を向けてみましょう。無理に力を抜こうとせず、ただ「気づく」練習です。
-
移動中の身体感覚に意識を向ける（歩く瞑想の簡易版）
- 通勤や買い物で歩いている時に。
- 足の裏が地面から離れる感覚、前に振り出す感覚、着地する感覚に意識を向けます。
- 腕の振りや、身体全体の揺れなども感じてみましょう。
- 目的地に早く着くことではなく、「歩いている」という行為そのものに伴う身体感覚に注意を向けます。
これらの実践は、数分でも効果があります。大切なのは、完璧に行うことではなく、「今、自分の身体はどう感じているだろう？」と意識を向ける習慣をつけることです。
実践することで期待できる変化
「身体の声を聞く」マインドフルネスを生活に取り入れることで、すぐに劇的な変化が起こるわけではないかもしれません。しかし、継続することで次のような変化が期待できます。
- 疲労や不調のサインに早く気づけるようになる：身体の微細な変化に敏感になり、大きな不調になる前に気づくことができるようになります。
- 自分自身の心と身体への理解が深まる：疲労感だけでなく、特定の感情や考えが身体の感覚とどう結びついているのかに気づく機会が増えます。
- 無理をせず、自分を労わる行動を取りやすくなる：身体の声に気づくことで、「休んだ方がいいな」「少しペースを落とそう」と、自分に必要なケアを選択しやすくなります。これは自己肯定感を育むことにもつながります。
- 漠然とした不安感や自己肯定感の低さが和らぐ可能性：自分の内側に意識を向け、ありのままの状態を受け入れる練習は、心の安定につながることが示されています。
これらの変化は、忙しい毎日の中で自分自身を大切にすることへの、優しく確実な一歩となるでしょう。
まとめ
「いつも疲れているな」と感じるその感覚は、見過ごしてはいけない、あなたの心と身体からの大切なメッセージです。マインドフルネスの実践を通して、この「身体の声」に耳を澄ませる習慣を身につけることは、自分自身をより深く理解し、労わるための有効な方法です。
特別なことではなく、日常のほんの数分でも構いません。呼吸や身体の感覚に意識を向ける時間を設けることから始めてみませんか。自分自身を大切にするその小さな一歩が、きっと心と身体のバランスを整え、忙しい日常を少しでも健やかに過ごす手助けとなるはずです。
「マインドフルネス身体知ラボ」では、これからも「身体の声を聞く」ための様々なヒントをお届けしていきます。